【猿橋賞】女性科学者に明るい未来をの会

会長あいさつ

会長・代表理事
岡村 定矩

 一般財団法人「女性科学者に明るい未来をの会」は、1980(昭和55)年の創立以来毎年、多様な自然科学の分野で優れた研究業績を挙げている女性科学者1名に猿橋勝子先生のお名前を冠した「猿橋賞」を贈呈してまいりました。今年で46回目となります。

 猿橋先生は、1943(昭和18)年に帝国女子理学専門学校(現在の東邦大学理学部)を卒業し、中央気象台(現在の気象庁)研究部に入所して研究者への道を歩みはじめました。猿橋先生が初等中等教育を受けられたのは第二次世界大戦前で、女性が高等教育を受けること自体が珍しい時代でした。その後の研究者への道のりも、女性ならではの困難と苦労が絶えませんでした。戦後、1954年にビキニ水爆実験が行われ、その影響が世界的に注目されました。猿橋先生は、放射能測定法の改良と高精度化に取り組み、海洋や大気に広がる放射性降下物を精密に測定し、核実験の影響が広く拡散することを示しました。1957年に東京大学で理学博士号を取得された猿橋先生は、科学者としてデータに基づいて核実験の危険な影響を実証し、その後も平和を希求し続けました。

 猿橋先生は、猿橋賞に込めた思いを次のように述べられています。「現在、女性科学者がおかれている状況の暗さの中に、一条の光を投じ、いくらかでも彼女らを励まし、自然科学発展に貢献できるように支援することができればと願っている」。猿橋先生が思いを託してこの賞を創設された時代に比べれば、社会の中で女性が置かれる環境は大きく変わってきました。1999年には男女共同参画社会基本法が成立し、その後、女性が仕事を継続し能力に応じて昇進することに社会の理解が進みはじめました。それに伴いさまざまな支援制度も整備されてきました。

 しかしながら、それから四半世紀以上経った現在でも、日本の研究者に占める女性の割合は2割に届いていません。これは経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の中でも最低水準です。文部科学省の学校基本調査によると、現在の大学進学率は、男子は6割近く、女子も5割を超えるまでに上昇し、男女差は大きく縮小しています。しかし、大学の理学系学部における女子学生の割合はまだ全体の30%に届いていません。猿橋賞受賞者の多くは、自らの研究の遂行だけでなく、後進の指導や中学生・高校生などに研究の面白さを伝える活動を熱心に行っています。素晴らしい研究者が率先して行うこの活動を見た若い女性は、自ら望めば理学の道に進む勇気を持てると思います。受賞者の中には後に大学や研究機関のトップとなって我が国の研究をリードする立場となり、さらに文化勲章や紫綬褒章を受章、あるいは文化功労者として顕彰を受ける方も多数います。

 猿橋先生が立ち上げられた私たちの会は、2012(平成24)年に一般財団法人となり、猿橋賞の贈呈を今日まで続けることで、猿橋先生の願いであった女性研究者の活躍に一定の貢献をしてきたと考えています。しかし本来目指すのは、あえて「女性研究者」という言葉を付けなくとも物事が普通に進む社会です。そのときが来るまで、当財団が持続可能な形で活動を続け、さらに発展していけるよう、ご支援のほどどうかよろしくお願い申し上げます。

2026年5月27日