本年の受賞者

第46回 猿橋賞受賞者 今田由紀子氏
研究業績要旨
「近年の気候変動と異常気象の要因分析に関する研究」
“Attribution Studies of Extreme Events from a Climate Perspective”


近年世界各地で異常気象が頻発し、地球温暖化との関連が注目を集めている。しかし、異常気象の主な要因は大気中の偶発的な「ゆらぎ」であり、温暖化がなくても発生しうる現象である。したがって、自然に起こる「ゆらぎ」による変動と、人為起源の温暖化やエルニーニョなどの長期的変動を科学的に分離し、要因を分析することが異常気象のリスクの理解において必須であるとされている。ところが、日本はアジアモンスーンや台風、猛暑、豪雪などの顕著な四季の気候変化に加え、山脈が連なり、海に囲まれた島国という特殊な条件のため、特有の複雑な気象現象があり、異常気象の要因分析をすることは困難であると考えられてきた。
今田由紀子氏は世界でも例のない高精度で高解像度・大規模なアンサンブル気候シミュレーションを用いることで、異常気象における温暖化などの影響の分析を行う「イベント・アトリビューション(EA)」手法を独自に発展させ、この困難な問題の解決に成功した。
様々な異常気象現象の中でも、集中豪雨のような極端な降雨は、発生メカニズムの複雑さとモデル化における精度の限界のためにEA研究は困難であると考えられてきたが、今田氏は日本で発生した豪雨について、地域という小さなスケールで温暖化の影響の分析を可能としたことにより高い評価を受けてきた。たとえば、平成30年の西日本豪雨は、世界の平均気温が約1度上昇することで豪雨の発生確率が3倍にまで高まったものの一例であることが明らかにされた。
今田氏の研究の基礎となっているものは、地球規模の緩やかな気候変動と局所的に発生する異常気象が物理的にどのように関連しているかという基礎科学である。ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士の大気モデルや大気海洋結合モデルの系譜を組んでおり、日本におけるEA研究の先駆者として果たしてきた役割は、基礎科学の社会実装においても極めて重要なものである。さらに、その成果はさまざまな国際的共同研究に発展している。
今田氏はEAの成果を社会に発信し、科学的根拠を与えることで温暖化対策を訴える活動も後押ししてきた。地球温暖化の緩和に向けた国際的な取り組みが、昨今の世界情勢の下で必ずしも十分な進展を見せていない中、科学的に裏付けられた異常気象リスクの評価とその社会への的確な伝達は、科学者に求められる使命であり高く評価されるものである。
長崎県出身







